令和時代における持続可能な日本社会の構築と外国人労働人材への対応策―インドネシア人労働人材の実証的研究―

本研究は日本の労働人材受け入れの制度変更の中で、送り出し側であるインドネシア政府の関連省庁等の日本への送り出しの考え、実際に送り出しを行っている送り出し機関の運営状況を明らかにすることを目的としている。特に、インドネシア人労働人材の派遣前後における各種サポートの現状を明らかにすることに着目する。より多くの労働人材を受け入れることを予定している日本の海外労働者の受け入れや対応策に関して、参考となる情報や助言を提供し、さらに、多文化共生とはどのようなものか、労働者の人権の確保の重要性について再検討したい。

2023年7月以降、インドネシアで人材派遣を行うための認定を受けた送り出し機関と地方の訓練機関(人材派遣の認定は受けていない)の運営実態や人材育成の現状について調査を実施している最中に、技能実習生制度が廃止され、「育成就労」へ移行するというニュースが日本において注目され始めた。そこで送り出し機関や関連する省庁がどのように考え、具体的な対策を講じているかについてもインタビュー調査を行うこととした。本調査では、技能実習制度、特定技能制度の現在の管理体制や、育成就労制度の報道後の議論の内容を中心に報告する。

2.1 インドネシアにおける人材派遣の管理体制と送り出し機関の現状

図1:インドネシアにおける人材派遣の管理体制と流れ(筆者作成)

日本への派遣労働者については、これまで技能実習制度が中心であり、労働省の「職業トレーニングと生産性指導総局(以下、BINALAVOTAS)」が管理を行っている(図1)。インドネシアでは技能実習はトレーニングプログラムとして認識されており、移民局ではなく、労働省の管理となっている。政府プログラムであるIM Japanの人材派遣だけではなく、人材派遣の認可を持つ機関(図1①)や日本語教育のみを実施する機関(図1②)の運営管理もすべて労働省のBINALAVOTASが管理している。
2019年、日本において特定技能制度が創設されたことにより、インドネシアにおける人材派遣の管理体制は複雑化した。特定技能での人材派遣は、労働省の移民労働者配置・保護部(以下、BINAPENTA)で実施、人権保護と監視は別の機関であるインドネシア移民労働者保護庁(以下、BP2MI)のアフリカ・アジア地域保護部が担当することとなった。特定技能は二つの部門によって管理が行われている(図1③)。
インドネシアは、技能実習制度について、その制度の趣旨の通り、派遣労働者について、一時的に日本で働いた後に帰国し、新たな雇用機会を創出することを期待しているが、特定技能制度を創設した日本は、派遣された労働者を長期間滞在させたいと考えている。日本側の新たな制度の創設により、インドネシア政府の人材派遣対応は複雑化したといえる。

*事例:IKAPEKSIの支援する技能実習制度修了者のインドネシア帰国後支援

日本にアイム・ジャパン経由で研修生として派遣されたインドネシア人は、IKAPEKSIという組織を設立した。この組織のメンバーは、全員が日本の公益財団法人「国際人材育成機関(通称:アイム・ジャパン)」のプログラムに参加し、日本で2~3年間の研修経験を持っている。30~40代が多く、研修を終えて帰国後は、日系企業で働いたり、起業の準備を進めたりした後に、企業経営者として活躍している。業種は、車の部品製造、コンサルタント、飲食、旅行など多岐にわたっている。

2.2 技能実習生制度廃止の報道時の技能実習・特定技能関係者の議論について

特定技能制度が開始されて以降、日本は特定技能での派遣に焦点があたっているため、技能実習生だけでなく特定技能の派遣に取り組む事業者も増加している。しかし、特定技能で来日している労働者には、技能実習制度の管理団体のような来日後の保護を受けるような制度がなく、来日後の生活困難に遭遇する事例が報告されている(2023年9月には、給与が不足しているために大阪のあるモスクで寝ることを余儀なくされた特定技能生が9人いる)。
技能実習の送り出し認可のある機関は、連合体であるAP2LN(Asosiasi Penyelenggara Pemagangan Luar Negeri、インドネシア労働省公認の協議会、以下、AP2LN)を設立し、送り出し機関と受け入れ団体の間で問題や誤解が生じた場合、支援と助言を提供している。その他、日本で問題や災害に巻き込まれた実習生への支援、関連機関や組織との戦略的なパートナーシップを築く活動を行っている。
2023年7月以降、技能実習制度の廃止計画や新制度の報道ついて、AP2LNメンバーは不満を持っている。日本では技能実習制度は悪評が多く、廃止論者が多いが、AP2LNは逆の意見である。技能実習制度は特定技能制度に比べてインドネシア政府および関連組織から非常に強力に保護、支援されていると考えている。技能実習生の候補者に対する教育、準備、派遣、およびインドネシアの送り出し機関によるフォローアップは適切であり、特定技能生のように、来日後、支援がなく困ることはない。特定技能制度は再検討および改善が必要と考えている。
AP2LNは、これまでの技能実習生に関する様々な問題は、日本側からの対応不足であるという意見だ。例えば、受け入れ側の日本企業の行った人権侵害から逃れるために失踪が起こったとしても、インドネシアの送り出し機関が常に非難され、技能実習生の送出し活動が一方的に中止される。受け入れ側である日本側に適切に監督を行う責任があると感じている。
しかし、BP2MIは異なる視点を持っている。BP2MIは、日本への技能実習生の送り出しと受け入れの仕組みに関して、多くの暴力や不公平な仕事の割り当てに関する報告が寄せられ、技能実習制度は、悪用されているケースが多いと認識している。技能実習制度は研修制度であり、労働者としての派遣ではないが、適切でない賃金等で技能実習生を労働者として雇用する事例が多い。この課題に基づき、BP2MIは、技能実習制度が廃止され、特定技能制度に置き換えられるべきだと非常に賛成している。
BP2MIは、仮に技能実習制度が廃止されない場合、職業トレーニングと生産性指導総局下に管理されているインドネシア内での研修機関(認可有り送り出し機関)は、日本への出発前の短期的な研修機関として機能し、日本に到着してからの研修は受け入れ団体が最長4カ月間で実施すれば良いと、提案している。

技能実習制度、特定技能制度について、現在もインドネシア政府の管理体制に課題がある中、育成就労制度について正式にインドネシア労働省に提出されていない時期にもかかわらず、送り出し機関らは、新しい規則に関する議論を行い、対応を開始している。
育成就労制度への変更に向けて、AP2LN会長は、育成就労制度への変更に対応するため、認可を受けた送り出し機関は日本語教育と各職種の教育をより充実させ、国家職業資格認証機構(以下BNSP)との新しい協力関係を模索し、技能実習生制度や特定技能制度の卒業生が、日本での仕事に適した職業資格を取得できるように、認可を受けた送り出し機関が新たな取り組みを始めることを検討している。
政府側は、管理体制を検討している。育成就労制度が特定技能制度の基準であるならば、この制度は特定技能を取り扱うBINAPENTA及びBP2MIの下に位置する可能性がある。しかし、研修という認識を残し、現在技能実習を管理している部門であるBINALAVOTASを維持するならば、出国の準備に関する事項(言語教育や仕事のマナーなど)は引き続きBINALAVOTASによって管理されるであろう。
育成就労制度の報道は人材派遣業者や、政府に対して非常に大きな影響を与えている。両国の積極的な情報交換・意見交換ののち慎重に議論され、協力体制を構築し、派遣労働者、受け入れ側である日本が相互に安心して制度に参加できることが非常に重要であるだろう。

研究員:アンディ・ホリック・ラムダニ