対移民・マイノリティー態度にまつわる研究

2023年度は、同テーマで2つの研究・調査を実施した。それぞれ、目的と概要を下記に報告する。

【単一民族観をめぐるアンケート調査】

 「単一民族観」については、2021年度より研究を始め(同年から2022年まで実施した研究については、公表された論文<相川, 2023年「年報カルチュラル・スタディーズ11」P95~>を参照)、本年度も継続して研究をおこなった。今回の研究では、個人の単一民族観をめぐる認識論的立場(本質主義、相対主義、構築主義)を把握し、それがどのように多様性や移民の問題にまつわる態度に関連するか検討することを目的とし、アンケート調査を実施した。
 アンケート調査では、日本語を母語とし、「日本人」と自認する者を対象とし、合計 286名から回答を得た。その結果、自身の単一民族観について回答した参加者のうち、半数以上(n = 125, 59.0%)が、「本質主義的」な単一民族観(単一民族神話の客観視)を保持しており、それ以外の立場の参加者はわずかであった。したがって、当初予定していたように、単一民族観をめぐる立場ごとに多様性や移民に関する態度を比較することはできなかった。しかしながら、以下のような結果も示された。

  1. 「日本社会の一員」の定義について聞かれた際、全体的に「多元的」定義(「日本」以外のアイデンティティーの保持、バイリンガル、など)よりも「同化主義的」定義(長期滞在、文化適応、法律の遵守など)を支持する傾向が高く、この傾向は「本質主義的」な単一民族観を保持する参加者において特に認められた。
  2. 日本社会の一因の定義として、「多元的」定義への支持は、移民の権利への支持と正の相関関係にあるが、「同化主義的」定義の支持は、短期滞在の移民(技能実習生、留学生など)の権利とは相関関係が認められなかった。

 以上の結果から、単一民族神話が、単純に「非日本人」の排除だけでなく、日本における「マイノリティー」に対して同化を求めるディスコースであること、また、同化主義的傾向が必ずしも移民の権利支持につながらないことなどが示された。本研究の結果は、学術論文として公表予定である。

【日本社会における「外国人」に対する態度における横断研究――社会調査データの2次分析をもとに——】

 日本政府が、「外国人」を労働者・定住者などとして正式に受け入れ始めてから30年以上経過している。この間、日本社会に労働者・定住者として在留する「外国人」の数は増え続けており、30年前と現在とでは、「外国人」受け入れをめぐる情勢も変わっている。しかし、この間、「在日外国人」に対するまなざしが変わったかどうか、実証的に検証する研究はほとんどない。したがって、本研究では、日本社会における「在日外国人」への態度を長期的に把握し、変化がみられるかどうか検証することを目的とする。
 それにあたり、本研究では、「総合的社会調査」(Japanese General Social Surveys; JGSS)のデータの二次分析をおこなった。分析では、2000年、2010年、2018年における対外国人態度に関する回答を比較すると同時に、対外国人態度の年による変化を他の変数によって説明できるかどうか検証した。その結果、以下の傾向が認められた。

図1 外国人増加の賛否をめぐる割合の変遷

  1. 各年とも外国人増加「反対」の割合が高かったが、特に2010年における割合が高い(図1参照)。
  2. そのほか、年齢、社会階層、居住地における外国人の割合も、対外国人態度を説明する変数として示されたが、これらの変数は調査実施年による割合の変化を説明しきれない。
  3. 2010年において、失業の可能性があるとする回答者の割合が高かったが、失業可能性の対外国人態度への影響はほとんどなく、対外国人態度の変遷における経済的影響は認められない。

 本研究の結果については、大阪商業大学JGSS研究センターに報告書を提出するとともに、学術論文として公表する予定である。

研究員:相川真穂