2023年度 携帯提供事業報告
事業内容および目的
・路上生活者含む生活困窮者にとって携帯電話はただの“贅沢品”ではなく、社会保障や就労への強力なアクセスツールとなる。また、社会で生活していく中での一つの身分証明の役割も果たしている。こうした背景を受け本事業では、特に携帯電話がなく様々な場面で不利な状況に置かれている生活困窮者の方々へ有期で自己負担なしの無償携帯電話(番号付与)を提供することを通じ彼らの社会的自立を支援する。
・対象者の選定及び貸出期間中の対応においては生活困窮者への支援を行うNPO団体に委託し協働で事業を行うが、事業に係る費用はすべて財団にて負担する。
利用者条件
現在、民間・公的支援機関から何かしらの支援介入を受けている人。
費用:ランニングコスト/年
SIMカード基本使用料・通話料 2,000円/月×38台 912,000円/年
2023年度報告
これまでに覚書を交わした団体数は総12団体である。当初は岡山市内の団体に限定されていたが、徐々に事業の認知度が高まっており津山、倉敷市玉島、水島、笠岡などの団体からも依頼があった。また、遠方への貸出は当事者および支援者が岡山市内に訪問するタイミング、もしくは郵送にて貸出の手続きを行っている。
2023年1月~12月に貸出を行った人数は48人であり、うち男性が43人(約9割)、女性が5人(約1割)となっており、ほとんどが男性の利用者であった。現在貸出中の人数は27人(2024年2月19日現在)である。貸出理由・利用目的(重複あり)は住居確保が24人で最も多く、次に就職活動が22人、支援連携・見守りのためが13人となっている。その他に訪問看護の手続きのため、銀行での通帳発行のため、弁護士とのやり取りのためといった理由での貸出もあった。2023年度内に返却した人数は29人であり、うち当初の目的を達成したり、何かしら自立へと繋がった方は21名で、7割以上の利用者が次のステップへと歩み出している。返却時にはさらなる事業の改善に向けて可能な限り当事者への聞き取りを行っており、利用してみての感想や不便だった点、改善してほしい点などを聞いている。当事者へ具体的な活用場面を聞いてみると、住居を契約する際の保証協会の審査時、入居時の不動産との連絡、ライフラインの手続き、仕事の検索・応募・面接時のやり取り、職場への連絡、支援団体職員・福祉事務所・病院・学校などの行政機関との連絡、家族・友達への連絡、地図アプリ、インターネット検索など、幅広い場面で利用されていることがわかった。
既存の制度やサービスからもこぼれ落ちてしまっていた方が電話番号を持つことで、賃貸契約や就職活動時における信用保証が得られ、その後の住居確保、就職へと繋がり社会的な自立への第一歩を支える一つのツールとしての重要性が改めて確認でき、事業成果を実感できている。当初想定していたよりも、様々な場面で必要とされていること、様々な年齢層で携帯電話が活用されていることが分かり、生活困窮者の社会的自立を支援する本事業の目的は現代社会において大きな意義を持つことが分かった。
今後の課題としては、ミクロな面で言えば利用が長期化している利用者への対応である。1年間の貸出期間を設けてはいるが、当事者の状況に合わせ延長可としているため当事者からの要請があれば上限なく貸出を行っている。ただ、本人の就労や生活に変化が特に見られない場合の対処がこれまで曖昧となっていた。今後は本人の意欲を促す意味でもこちらで貸出の上限を決める必要がある。また、マクロ面で言うと事業開始時からの目標でもあるが、本事業を通し引き続き通信困窮者の実態を明らかにしながら本事業の意義を示していくことにより、公的な支援介入の必要性を訴えていきたい。今後は特に岡山市へ積極的に広報しその必要性を示していきたい。
※事業開始(2021年6月)~2023年6月時点までの事業成果報告 詳細はこちらから ⇒ PDF
研究員:松田郁乃