外国人介護人材、特定技能生の転職要因及び一考察

日本は様々な分野において人手不足に直面し、その対応のために、生産性の向上、高齢者や女性、外国人の登用を行なってきた。外国人の登用についていえば、介護業種では2008年の「EPA」の受け入れ以降、在留資格「介護」、「技能実習」、「特定技能」と2024年1月現在、4種の在留資格で受け入れている。2019年に開始した特定技能制度は労働者としての受け入れであり、EPA や技能実習の研修としての受け入れとは異なる。特定技能制度では、同業種他企業への転職、指定された試験合格により、他業種への転職が可能である。本研究では特定技能介護職への転職要因を探り、介護職として就労継続の視点から必要な支援に関して検討のための資料を得ることを目的とし、特定技能介護職員5名を対象に、転職体験について、半構造化インタビューを実施した。

主なインタビュー項目は、①働くとはどのようなことか②日本で働いてみて感じたこと③介護職を選んだ理由等である。データの解釈にあたっては、グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用した。インタビュー時期は2022年3月~2022年7月、インタビューは1名1回、平均28.7分、通訳者同席、翻訳アプリを使用しながら実施している。
協力が得られた対象者は、20代 1名、30代 4名、すべてミャンマー国籍の女性、日本滞在期間は、3年以上5年未満 4名、5年以上10年未満 1名であった。転職6か月以内、すべて技能実習の経験があり、技能実習時の業種は、縫製や電子部品の組み立てなど介護以外の業種経験者が4名、介護業種経験者が1名であった。日本語能力はJLPT2級 1名、3 級 1名、4級 3名である。
特定技能介護職者の転職行動の要素として、2つの【主要カテゴリ】、7つの(カテゴリ)、18の「サブカテゴリ」が抽出された。主要カテゴリは【求職活動環境に関する要因】【自身の労働観に関する要因】である。

【求職活動環境に関する要因】は、(時期)と(情報アクセスの身近さ)をカテゴリに、「Covid19 の影響」「母国の政治的な問題」「知人の介在による就労情報の取得」「介護現場の就業内容の情報の豊富さ」がサブカテゴリとして挙げられた。対象者全員が人材紹介会社を通じて入職していたのだが、その人材紹介会社へのアクセスの前に、当時の職場同僚、Facebook の友人等が介在し、その後オンライン上で転職サイトや紹介会社にアクセスし、転職に関する情報を得ていた。介護職の求人は多く、求人情報から介護職の働き方の理解がすすんだことが伺えた。

【自身の労働観に関する要因】は、(宗教・倫理観)のカテゴリでは、「家族のためにお金を稼ぐ必要性」「人のお世話をすることは自分のためになるという教え」について、(自分に適した職業の選択と能力向上への意欲)のカテゴリでは、「介護職への適応の自覚」、(日本語)のカテゴリでは「介護現場での日本語習得への期待」が語られた。(就労環境)のカテゴリでは「充実した教育体制」(生活環境)のカテゴリでは「自身の生活の充実」として居住環境として便利な地理条件等も吟味していることが語られている。(日本語)のカテゴリでは、「日本語能力の低さの自覚」も語っている。

インタビュー対象者のうち2名が、早期退職するのだが、介護職をあきらめる一要素として日本語習得の難しさを語っていた。また、来日前、日本で働くことを選択したことについて『日本は安全、韓国と比較し、女性の働ける仕事がある』とどこの国で働くかについても検討していることも語られている。

特定技能生は彼らの労働観に基づき、情報を精査し業種・職場を選び転職を行っている。彼らは日本語を習得したいという意欲があり、介護職としての経験は、日本語の習得との関連があると考えていることが示唆された。また、うち1名は介護福祉士取得を目指し転職したことを語っている。在留資格「介護」は、特定技能1号の5年間に、介護福祉士試験合格による在留資格変更が可能であるが、EPA の介護福祉士試験合格率から、合格への高い壁の存在は明らかである。外国人介護職の日本での就労の希望、企業側の人材確保の希望は様々と考えられるが、他業種から介護職を選択、転職した者にとって、キャリアップしながら介護職継続を望んだ場合、介護・日本語の習得、介護福祉士資格取得支援の課題から在留資格制度再考の必要性まで様々な検討課題があることが明らかとなった調査であった。

研究員:井上登紀子